「歯が痛いけれど、お腹の赤ちゃんへの影響が心配で歯医者に行けない」——妊娠中にそう感じて我慢しているお母さんは、意外と多いのではないでしょうか。でも実は、痛みや炎症をそのまま放置することのほうが、赤ちゃんへのリスクになる場合があります。「いつなら行っていいの?」「麻酔は大丈夫?」という疑問を時期別に整理しましたので、ぜひ参考にしてみてください。
妊娠中に歯医者を避けていませんか?放置のほうがリスクになることも
「妊娠中だから歯医者は我慢しよう」と思いがちですよね。でも、知っておいてほしいことがあります。お口の問題は放っておくと、赤ちゃんにも影響が出ることがあるのです。
ホルモン変化でお口は普段以上にダメージを受けやすくなっている
妊娠中は「エストロゲン」「プロゲステロン」という2つの女性ホルモンが急激に増加します。このホルモンの変化が原因で、妊娠中は歯周病にかかりやすくなるといわれています。
また、ホルモンバランスの変化などにより、「妊娠性歯肉炎」という歯茎の炎症や、「妊娠性エプーリス」という歯茎のできものができることがあります。日本歯科医師会テーマパーク8020によると、つわりの影響で歯磨きがおろそかになったり、嗜好が変化することでむし歯が急に悪化することもあるとされており、妊娠中はお口へのダメージが重なりやすい状態です[1]。
さらに、調査対象となった妊婦さん全員が、歯周病の前段階である歯肉炎になっていることが分かったという研究もあります[2]。これは一般の30代女性の歯周病の割合(約3割)と比べても、妊婦さんはいかにリスクが高い状態にあるかが分かりますね。
歯周病が早産や低体重児出産のリスクを高める可能性がある
「歯のことは出産後に」と先延ばしにしたい気持ちはよく分かります。でも、早産や低出生体重児の母親には歯周病が多いという研究結果もあり、歯周病が早産などの要因の一つであるとも考えられています。[2]
そのメカニズムとしては、歯周病が進行すると炎症物質が血管を通じて全身をめぐり、子宮に到達すると子宮収縮を促す刺激になるためと考えられています。歯周病を「お口だけの問題」と捉えず、全身の健康として考えることが大切です。
「痛みがなければOK」ではない。定期的な確認が必要な理由
妊娠中はむし歯や歯周病になりやすくなっている上に、これらの初期症状に自分からは気づきにくいものです。つわりがおさまる4〜5カ月頃に歯科健診を受けて、比較的体調の安定した妊娠中期に必要な歯科治療を済ませたいものです。[1]
「痛みがないから大丈夫」ではなく、自覚症状が出る前に定期的にチェックしておくことが、妊婦さんにとって特に重要です。当院(博多I’S歯科・矯正歯科)でも、「抜かない・削らない」を基本方針として、早期発見・早期対処を心がけています。妊娠が分かったタイミングで一度、お口の状態を確認されることをおすすめしています。
妊娠初期・安定期・後期、時期ごとにできる治療・控える治療
妊娠中でも、時期によってできることとそうでないことがあります。ご自身の今の時期に合わせて確認してみてください。
妊娠初期(〜15週頃):応急処置にとどめる時期
妊娠初期(1〜3か月)は、赤ちゃんの臓器が形成される大切な時期です。妊娠初期はできれば薬物の服用を避けたいものです。[1] つわりがひどい時期でもあり、長時間チェアに横になったり口を開け続けること自体も負担になりやすいです。
この時期は「緊急時以外は応急処置にとどめる」が基本です。強い歯痛があれば一時的な鎮静処置だけ行い、根本的な治療は安定期に改めてスタートさせるのが一般的な対応です。
安定期(16〜27週頃):積極的に治療できるベストな時期
つわりがおさまる4〜5カ月頃に歯科健診を受けて、比較的体調の安定した妊娠中期に必要な歯科治療を済ませたい[1]というのが、日本歯科医師会の見解です。
この時期は、むし歯治療・歯周病のクリーニング・歯石除去(スケーリング)など、多くの処置に対応できます。お腹の膨らみもまだ大きくなく、仰向けの診療姿勢でも比較的楽に受けていただけます。
| 時期 | 診療姿勢の負担 | むし歯・歯周病治療 | 抜歯・外科処置 | レントゲン |
|---|---|---|---|---|
| 初期(〜15週) | つわりで大きい | 応急処置のみ | 原則避ける | 緊急時のみ |
| 安定期(16〜27週) | 比較的少ない | 積極的に可 | 慎重に判断 | 必要な場合は可 |
| 後期(28週〜) | お腹が大きく負担 | 短時間のみ | 原則避ける | 必要な場合は可 |
当院では、妊娠週数・体調・産婦人科の主治医の指示を確認しながら、安定期に合わせた治療スケジュールをご提案しています。光学スキャナー(iTero5D)やCTを導入しており、状況に応じた精度の高い診断が可能です。
妊娠後期(28週〜):体への負担を最小限にした処置のみ
後期はお腹が大きくなり、長時間仰向けになると子宮が太い血管(大静脈)を圧迫して気分が悪くなることがあります(仰臥位低血圧症候群)。そのため、この時期は短時間で終わる処置や口腔ケア・歯磨き指導など、体への負担が少ないものに限定するのが基本です。
抜歯や外科処置などは、後期・直前期には原則として産後まで延期し、産婦人科との連携を取りながら判断します。急な歯のトラブルが起きた際も、まずはご相談ください。
麻酔は使っていいの?歯科の局所麻酔・レントゲン・お薬への不安を解消
「麻酔をすると赤ちゃんに影響が出ないか心配」という声は、妊婦さんからとてもよく聞かれます。正しい知識を知っておくと、不安がずいぶん和らぎますよ。
歯科の局所麻酔は、通常量では赤ちゃんへの影響はごくわずかとされている
歯科治療で通常用いられるエックス線の放射線量はごくわずかですし、照射部位も子宮から離れているので、お腹の赤ちゃんにはほとんど影響はありませんが、妊娠していることを伝えて防護用エプロンを着用するとさらに安心です。[1]
局所麻酔については、歯科で使用する局所麻酔薬で、妊娠時に投与され奇形が発生した報告はありません。ただしながら、器官形成期である妊娠12週まではなるべくなら一切の薬剤の投与を避けることが賢明です。
また、妊娠後期には若干、子宮の収縮・弛緩に影響することがあるので、血管収縮剤なしの麻酔薬を使用する場合もあります。当院でも妊娠時期に応じた麻酔薬の選択を丁寧に行っています。
レントゲンは防護エプロンがあれば問題になるレベルの放射線量ではない
現在の歯科のレントゲンおよびCT検査による被ばく量は、医科の検査の数十分の一から数百分の一にとどまることから、妊娠中でも問題なく検査を受けることができます。また、歯のレントゲンは撮影したいお口の部分と性腺や子宮からは離れていることや、撮影時には防護用のエプロンを着用するため胎児への放射線の影響もほとんど心配いりません。
ただし、妊娠中は必要最小限にとどめ、妊娠していることを必ず事前にお伝えいただくことが大切です。当院では撮影の際に必ず防護エプロンを着用していただいています。
お薬について:産婦人科と連携しながら、安全なものを選択する
中期以降の歯科治療で処方される薬剤は、妊娠中でも安全に使用できる薬剤が選ばれていると思います。不安・心配がある場合は、歯医者さんや薬剤師さんに質問するか、産科の主治医に相談しましょう。[1]
痛み止め(鎮痛剤)については、妊娠中に使えるものとそうでないものがあります。特に、市販の鎮痛剤を自己判断で服用することはおすすめしません。当院では新心会グループに所属し100名を超える歯科医師が在籍していることで、産婦人科との連携が必要な場面でも速やかに情報共有し、安全な薬剤選択に努めています。
妊娠中だからこそ大切にしたい、毎日のセルフケア
歯医者に行けない時期でも、ご自宅でできるケアがあります。特につわりがつらい初期こそ、少しの工夫でお口の状態を守れますよ。
つわりがつらくても続けられる歯みがきの工夫
日本歯科医師会によると、「つわり」の時には、できるだけ気分のよい時に歯みがきを行い、みがけない時はぶくぶくうがいをしましょう(ヘッドの小さな歯ブラシを使うとよいでしょう)。[1]
具体的には、次のような工夫を試してみてください。
- 歯ブラシ:ヘッドが小さくて柔らかいもの(子ども用でもOK)に変えると、奥まで入れやすくなります
- 香り・味:ミント系が気持ち悪くなる場合は、無味・無香タイプの歯磨き粉や、重曹を薄めた水でのうがいでも代用できます
- タイミング:嘔吐後は30分ほど置いてから磨く(胃酸で歯が溶けやすくなっているため)
- 体勢:洗面台の前で立ってみがくのがつらい場合は、座りながらでも大丈夫です
夜だけはデンタルフロスを。就寝中の菌の増殖を防ぐ
お口の中の細菌は就寝中に増加するというデータがあります。ハブラシだけでは汚れを取りにくい歯と歯の隙間には、歯間ブラシやデンタルフロスといった清掃用具を活用するようにしてください。[1]
忙しい妊娠中でも、「夜の歯みがき後にデンタルフロスを1回通す」だけで、歯と歯の間のプラーク(歯垢)をしっかり除去できます。歯周病のリスクが高まっている妊娠中こそ、この1ステップが大きな差をつけます。
安定期に入ったら、歯科でプロフェッショナルケアを受けよう
ご自宅でのセルフケアと並行して、安定期(16〜27週)に入ったら歯科医院でのクリーニング(PMTC)や歯石除去を受けることをおすすめします。プラークや歯石は自分では落とせない汚れで、放っておくと妊娠性歯肉炎(歯茎の炎症)を悪化させる原因になります。
当院では、妊婦さんの体への配慮を大切にしながら歯周病治療や予防処置(クリーニング)を行っています。できるだけ短時間で、体勢も調整しながら対応しますので、遠慮なくご相談ください。
まとめ
- 妊娠中は歯周病・むし歯リスクが普段より高まる。 ホルモン変化・つわりによる歯みがき不足・食生活の変化が重なるため、放置しないことが大切です。
- 時期によって対応が変わる。 初期は応急処置のみ、安定期(16〜27週)は積極的な治療が可能、後期は短時間・低負担な処置に限定するのが基本方針です[1]。
- 麻酔・レントゲン・お薬への不安は解消できる。 歯科の局所麻酔は通常量では赤ちゃんへの影響はごくわずかとされており、レントゲンも防護エプロンで十分対応できます[1]。
- つわり中でもできるセルフケアがある。 小さめヘッドの歯ブラシ・無香タイプの歯磨き粉を活用し、夜はデンタルフロスを1回通す習慣だけでも、お口の状態を守る力があります。
- 妊娠が分かったら早めに歯科に相談を。 自覚症状がなくても、安定期に1回は歯科健診を受けることで、赤ちゃんとお母さん両方の健康を守ることにつながります。
「妊娠中なので歯医者に行くのが不安」「安定期に入ったので気になっていた歯を診てほしい」という方、博多I’S歯科・矯正歯科(福岡市博多区・櫛田神社前駅すぐ)は土曜・日曜も診療しており、お体への配慮を大切にした診療を心がけています。予約は24時間WEB予約からいつでも受け付けています。「妊娠何週です」とひと言添えていただくだけで、スタッフが配慮して対応します。まずは気軽にご相談ください。
はじめて受診される方は、初めての方へ(初診の流れ)もあわせてご覧ください。
参考文献
[1] 日本歯科医師会「妊娠時の歯やお口のケア」テーマパーク8020 jda.or.jp
[2] 順天堂大学「妊婦の歯周病リスクを口臭で評価~家族で支える産前産後の母子環境~」順天堂 GOOD HEALTH JOURNAL goodhealth.juntendo.ac.jp
